映画化して欲しい馬と騎手の物語

2019年2月11日
佐賀競馬場を1人の騎手と1頭の馬が感動に包んだ。


騎手の名前は山本 聡哉騎手。岩手競馬佐藤浩一厩舎所属の騎手である。


地方競馬ファンの中では比較的有名な騎手で、2018年の岩手競馬で1番勝利数の多かった騎手だ。笠松グランプリを3連覇したラブバレットや、大井記念を制覇したウマノジョーとのコンビで知られている。冬季の岩手はご存知の通り積雪量がものすごく、競馬が開催されない。その為岩手競馬の騎手は冬季遠征として、南関東や他の競馬場に遠征をしている。山本騎手も冬季遠征で佐賀競馬に期間限定で遠征していた。

そしてこの山本騎手を背に、佐賀記念を激走したのがヒラボクラターシュ。
(黒メンコ、緑帽の競走馬)



こちらは中央所属の競走馬だ


キンシャサノキセキ:母ヒラボクウィンという血統
佐賀記念までにOP2勝を含む4勝と、今年の佐賀記念でも上位の能力を持った競走馬だ。本来は2018年のダービージョッキー福永祐一騎手を背に佐賀記念に挑む予定だったが、後述の理由で山本騎手への乗り変わりが決まった。


2月9日、東京に大雪が降った。この雪の影響により本来9日に東京競馬場で開催されるレースが、2月11日にずれ込むことが決定した。このズレで一つ問題が起きた。その問題とは2月11日に佐賀で行われる佐賀記念のヒラボクラターシュの騎手を誰にするかという問題だ。本来福永騎手が騎乗する予定だったが、11日にずれ込んだ東京のレースに福永騎手が乗る必要が生じた。つまり同11日に開催される佐賀記念のラターシュへの騎乗が不可になったため、代わりの騎手を探さなければいけなくなったのだ。

ここからすべてが始まったといっても過言ではない。乗り変わりが報じられた際、中央の騎手に乗り替わるのかと思ったがニュース記事に出たのは「山本騎手」の四文字。山本という中央の騎手は聞いたことがなかったので、詳しく調べると山本 聡哉というフルネーム。ここでやっと佐賀に遠征してきた岩手の山本騎手だと気づいた。山本騎手が中央から来た有力馬に乗るというだけで私は胸が熱くなった。その理由もお話ししておこうと思う。

大々的なニュースなったので競馬に興味がない方もご存知だとは思うが、2018年岩手競馬で5頭の競走馬がドーピング検査で陽性反応が出た。さらにこの一件はただのドーピング違反ではなく、岩手競馬を潰そうとする外部犯が競走馬に薬を盛っているのではないかという疑いもあり警察が動いている。この一連のドーピング事件の影響で岩手競馬は開催中止にまで追い込まれてしまい、騎手はもちろん、馬主、調教師、厩務員、生産者の方々に多大なるダメージを与えた。岩手競馬の関係者は、イメージ回復、存続のために必死に問題解決を目指している。その岩手競馬を背負って頑張っている山本騎手が乗るとなると応援せずにはいられなかった。



さらに個人的なことだが山本騎手が佐賀競馬場で、パドックで馬に乗る際にお客さんに聞えるぐらいの声で厩務員の方に「お願いします」コースに出る時には「ありがとうございました」と言っている。勿論他の騎手も言っているのだが、大きな声で厩務員さん1人1人に感謝の言葉を伝える山本騎手の姿勢には憧れすら抱いてしまった。二度目になるが、人柄もよく、大きな問題に立ち向かう山本騎手が佐賀記念で勝利に近い馬に乗るということで応援せずにはいられなかった。

レース当日、ヒラボクラターシュは3番人気。1番人気は中央でOP2連勝中のテーオーエナジー。2番人気は中央でG3を2勝しているグレイトパール。大方の予想はこの3頭の3つどもえであった。ヒラボクラターシュは前走G1で9着という点で3番人気まで落ちたのかもしれないが、ダートの新星ルヴァンスレーヴから1.6秒差となかなかのレースをしてきている。


スタート後、先頭に立ったのは、テーオーエナジー。ヒラボクラターシュは、外目の4,5番手でレースを進める。1週目の最終コーナー、悠々と逃げる白帽のテーオーエナジー。それを追走するリーゼントロック。その後ろにヒラボクラターシュ。この時点で私は内を走れて、前目についているテーオーエナジーが有利。ヒラボクラターシュは外目を走り、距離のロスで少し厳しいのではないかと思った。



しかし2周目の最終コーナー。客席から「山本差せー!!」「頑張れやまもとおおおお!!」と大声援が沸き起こる







なんと距離のロスが全くなかったのごとく、ヒラボクラターシュがテーオーエナジー、リーゼントロックを一気に捲っていく。そして最後の直線、リーゼントロックとの叩き合いを制したヒラボクラターシュが2019年の佐賀記念の勝者となったと共に、11年ぶりに地方所属の騎手が佐賀記念を制した。ゴール後の観客席からは「山本騎手おめでとう!!」と多くの拍手と歓声が送られた。




ゴール後の勝利騎手インタビュー
山本騎手はこう語っていた

「佐賀競馬にお越しくださってありがとうございます。急遽乗せて頂いた関係者の皆さまにもとても感謝しています。岩手競馬の為にもという思いもあったので本当にうれしかったです」

さらに中央の川田騎手経由で福永騎手からのアドバイスを伝えられていたようで、そのアドバイスも活きたのかもしれない。

競馬に触れて1年半とまだまだな私だが、この1年半で様々な競馬のドラマに触れてきた。アーモンドアイの三冠+ジャパンC制覇。オジュウチョウサンの有馬出走。テイエムオペラオーとの約束を果たした和田騎手の宝塚制覇。この他にも数多くのドラマに触れ感動した。

その数々のドラマの中で今回の勝利は、数々の出来ことが折り重なって生まれた勝利だ。佐賀から遠く離れた東京に大雪が降り注ぎ、お手馬に乗れなくなった福永騎手。その影響で佐賀で騎手を探すことになったヒラボクラターシュ。その競走馬に乗ることになったのが、大きな事件に巻き込まれた岩手競馬を背負う山本騎手だった。様々な物を背負った山本騎手の佐賀記念勝利。まるで一本の映画を見ているかのような感動を覚えた。岩手という雪国から来た騎手が、雪のおかげで佐賀最大のレースで勝利をつかんだのも競馬と陸奥の神様からのプレゼントだったのかもしれない。

山本騎手はあと数月もすれば岩手競馬に戻る。その際はただ見送るだけではなく、岩手競馬に戻った山本騎手を遠く佐賀から応援していく。ありがたいことにネットで馬券を購入できるので、馬券購入で岩手競馬の売り上げに貢献し、山本騎手の気持ちに応えれたらと思う。叶うならば現地で山本騎手に声援を送りたい。この記事を読んだ皆さんも是非、岩手競馬と山本騎手を応援してほしい。その為にも一刻も早く岩手競馬の問題が解決し、開催が再開されることを応援している。




頑張れ山本騎手!!!


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